会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

真面目の逆

「真面目な仕事?」妻は私の顔を食いつくように見てから、鼻で笑った。「なに、よくわからない」

 

「いい歳して、そんなこともわからんのか!」

小馬鹿にされた気分になり、私は声を荒げた。

 

「じゃぁ、真面目じゃない仕事って何?」

カチンときたのか、妻も荒れた口調で返してきた。

 

「そ、それは…」

またもや、妻子の前で自分の想像するいかがわしい職業の名称を言うのをためらわれ、私は口ごもる。

 

どうすればいいんだ…。

私は、形勢逆転をはかるべく知恵を絞る。

 

そこで、私は気がついた。

逆転したいのなら、逆転した発想で返せばいいのではないか、と。

 

それはつまり、不真面目な仕事について語れないのなら、真面目な仕事とはどういうものかを語ればいいという発想だ。

 

長年のサラリーマン人生で学んだ仕事の価値観を語ることは、妻子へのいい教育にもなる。

一石二鳥だ。

 

「仕事とは、汗水たらして地道に働いて、それで家族を養い、世の中のためになるから尊いんだ」

強気を取り戻した私は、父親の威厳を見せるため胸を張って言った。

 

「だから、何?」

妻と長女は、合唱するかのように息の合った言葉を返してきた。

 

「わからないやつらだ」私は髪の毛を激しくかいて、また声を荒げてしまう。「だから、不真面目な仕事というのは、いま言ったのと逆な仕事ってことだよ」

 

「逆な仕事って、ことは…」

妻はのんびりとした口調で、空を見上げる。

 

「楽して稼ごうって仕事のことだよ!」私は妻のテンポに苛立ち、斧で薪を割るように言い放った。「そういう仕事にろくなものはない」

 

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