会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

言えないよ

「や、やりたい仕事って、お、おまえまさか…」

一文字発する度に水分が失われていくように、私の口内は急速に乾いていく。

 

「まさかって、なに?」

長女は上唇を、再びアヒルのようにめくりあげる。

 

「そ、それは、つ、つまり、な、なんだ…」

娘の前で私の想像するいかがわしい職業の名称は言えず、私の干からびた喉から次の言葉が出ない。

 

「な、なに、どうしたの?」

私の動揺が伝染したかのように、長女も動揺した声をあげる。

 

「だ、だから…」

砂漠でオアシスを見つけられない人のごとく、私は回答に困り、かすれた声で言葉をつまらす。

 

「ち、ちょっと、お父さん、やばいんじゃない」

長女は、彼女の隣にいる妻の腕を揺さぶりながら言う。

 

「そ、そうね」妻は動揺した手つきで、パンツのポケットからスマートフォンを取り出す。「き、救急車呼ぶわ」

 

「ば、馬鹿、そ、そんなの呼ぶな!」

金縛りを振り払うように必死にもがいた末、ようやく私の喉から吹っ切れたような明瞭で大きな声がでた。

 

「大丈夫なの、あなた?」

妻はスマートフォンを操作する手をとめた。

 

「決まっているだろ」

 

「本当?」妻は私を凝視して訊く。「じゃぁ、どうしたっていうの?」

 

「どうしたって、そ、それは…」

 

「なに?」

容赦なく、妻は畳みかける。

 

「だ、だから、そ、それは真面目な仕事なんだろうな」

適切な言葉が見つからないまま、私は言葉を返した。

 

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