会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

どんな仕事だ!

「仕事が楽しい…」

嘘でも強がりでもなく、妻は本当に仕事を苦にしていない様子である。

 

記憶のなかの妻は、長時間の立ち仕事の辛さや、自分を活かせない職種への不満、職場の人間関係の悩み、家事との両立の大変さなど、夫婦ふたりになったときに愚痴をこぼすことがよくあった。

 

仕事のストレスがたまっているのは私も同じであったので、苦しいのはお前だけじゃないと、その度に言い返したものだ。

そして仕事とは楽しいものではなく、お金をもらえるのもそういう我慢をするからだと、私は妻に言い聞かした。

それが仕事に対するふたりの価値観ではなかったか?

 

それが、仕事が楽しいだと…。

それって、いったいどんな仕事だ?

まさか、本当に…。

 

妻と長女が真面目な仕事をしていないのではないかという疑念が強まり、私はうろたえる。

 

「お前はどうなんだ?」

私は動揺と怒りが混ざった声で、長女に訊く。

 

「どうって、何が?」

長女は、アヒルのように上唇の先をめくらせて聞き返してきた。

 

「だから、仕事が楽しいか、どうかってことだよ」

 

「決まってるじゃん、楽しいに」

長女はあっけらかんと答えた。

 

その態度が逆らっているように映り、私の怒りの導火線に火がついた。

「お、お前ら、どんな仕事をしているんだ!」

 

私が怒鳴ると、道でいきなり熊に遭遇したかのように、長女は血の気の失った顔色になった。

 

妻は、氷像のように固まった長女の背中を擦りながら、「やりたい仕事にきまっているじゃないの」と私に返し、「ねぇ」と長女に同意を求める。

 

長女は強張った表情を縦にふった。

 

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