会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

弟まで…

「な、なに怒っているんだよ…」

弟は私の剣幕が予想外であったらしく、呆気にとられた表情を浮かべる。

 

「43の中年男が自分に合った仕事を就けるなんて、そんな贅沢できるわけないだろ!」

世間知らずの弟に私はかみつく。

 

「それはアニキの努力次第だろ」

 

「は?」私はあんぐりと口を開ける。「オマエは馬鹿か」

そんな贅沢な選択が許されるのは新卒者までだ。

中年男は面接を受けさせてもらえるどころか、門前払いだって珍しくない。

努力では解決できない問題があるってことを、40を過ぎてもアーティストになる夢を追い続ける弟には、わからないのかもしれない。

 

この機会に説教をしてやろうと思い、私は、四角い顔についた弟の小さい目をキッと見据えて言った。

「オマエ、いい加減、夢から覚めろ」

 

「どういうことだよ」

 

「アーティストになるなんて、馬鹿な夢を諦めろってことだよ」

 

「なんで?」

弟は小さい目を丸くする。

 

「そんなことをしていたら人生を棒にふってしまうからだよ」私はため息をつきながら首を左右にふる。いい歳をしてそのくらいのこともわからないのかと、愕然としたからだ。「だから、バイト暮らしじゃ、結婚ができないし、老後だって安心できないってことだよ」

 

「なに言っているの」弟は目玉が飛び出るくらいに驚いた表情をした。「オレ、結婚しているじゃないか。それに老後の心配なんて、あるわけないだろ」

 

「えっ!?」

驚きで、口から心臓が飛び出そうになる。

 

目覚めてみたら、外の景色ばかりでなく、ロクデナシな弟までかわっていたとは…。

悪夢を見ているとしか思えない現実に私は途方に暮れた。

 

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