会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

気楽な弟

「無職って、どういうことだよ」

弟はめったに見せない真顔になって、私に迫った。

 

いい歳をしてフリーターで地に足がつかない暮らしをしている弟が、まさかこんな反応をするとは思わなかった。

金づるを失うことに動揺しているのか…。

 

「働く気、なくなっちまったのか?」

弟は両手で、私の肩を揺すった。

 

私は弟の握力に驚いた。

その力強さが、なまくらな生活を送ってきた人間のものとは思えなかったからだ。

 

「働く気はあるさ」弟の迫力に押され、私はすっかり動揺してしまった。「だけど、か…」

そこまで言いかけ、私は慌てて口をつぐんだ。

会社の話をして、弟にまで見下されたら、立ち直れなくなると思ったからだ。

 

「だけど、何?」

緩みかけた弟の握力が再び強まる。

 

「か…」私は頭の中でしりとりをしながら、最適な言い訳を探す。「か、からだがいうことをきかないんだよ」

 

「二、三日休めば済むというレベルじゃないのか?」

私の体を気遣ってか、私の肩をつかむ弟の握力は急に萎える。

 

「わからん」

そう答えて、私は深いため息をつく。

本当に、ずっと社会復帰ができそうになく思えた。

 

「そうか…」

弟の声も沈む。

それから4、5秒沈黙が続いたが、弟は私を励ますような明るい表情になって、「まぁ、長い人生そういう時期もあるさ。今は体を治すことが優先。元気になったら、また働けばいい。そう、もし今の仕事が合わなければ、別の仕事を探せばいい。そう思えば、いいチャンスだよ」

 

「気楽なことを言うな!」

私は声を荒げた。

 

43歳にもなる男が簡単に仕事がみつかるわけがない。

ましてや自分に合った仕事に就けるなんて、夢のまた夢…。

家庭も持たず、気楽なバイト暮らしを送っている弟に、社会の厳しさがわかるわけないのだ。

 

前へ

次へ

最初から読む