会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

間の悪い男

会社から電話がないのなら、自ら会社に出向くしかないと思ったが、すべての景色は昨日までのものとは一変しているので、どうすることもできず、私は妻に頼って家に帰った。

 

家に着くと、時刻はもう午後1時をまわっていた。

妻はすぐに昼食を用意すると言ったが、食欲のわかない私はそれを断って、しばらく休みたい、と言って、寝室に向かう。

 

ちょうど、その時である。

 

「アナタ、カツヒロさん」

階下から、妻の声が聞こえてきた。

 

カツヒロとは、2つ離れた私の弟である。

 

「クソッ」

私は、これまでの人生で一番まいっているときに、あのロクデナシに会わなければならないことを呪った。

 

カツヒロのあだ名は、「寅」である。

寅とは、映画「男はつらいよ」の主人公である「車寅次郎」を指す。

 

私の弟は、実力もないくせに、子供の頃から夢を追いかける人間で、高校を卒業すると、アーティストになるといって、家出同然で東京へ出ていった。

 

しかし意気地がなく、半年もすると実家に戻り、バイト暮らしを始めた。

親が叱ると、弟は「バイトをしながら、夢を実現するんだ。そのうち倍返しに恩返しするから、長い目で見ていてくれ」という始末…。

 

それが叶わぬまま、無為に時は経ち、いつしか弟は親族から、「寅」と陰口を言われるようになった。

 

そんな不出来な弟が、家に来るときはロクな話がない。

私は腹ただしさと憂鬱さで、さらに胸を暗くした。

 

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