会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

悔し涙

「ど、どうしたぁ」歯抜けの男性はオロオロとしながらも、私に駆け寄る。「オレ、何かマズイことを言ったか?」

 

「カ、カイシャがぁ…」

気が遠くなっていく私は、助けを求めるように、彼にむかって右手を伸ばす。

 

「あっ!」

突然、伸ばした手首が誰かにつかまれ、横に引っ張られた。

 

「すみません」

引っ張られた方向から、妻の声がした。

 

「アンタの旦那さん?」

歯抜けの男性が妻に訊く。

 

「ええ」妻は、つかんだ私の手を静かに下ろしながら答える。「主人ちょっと勘違いしているようで、ご迷惑をおかけしました」

 

「ああ、そうなの…」

歯抜けの男性は答えると、何か気配を察したらしく、白髪頭の男性のほうに目をやる。

 

見ると、白髪頭の男性は、右側の頭を右手の人差指で円を描いていた。

 

「大変だねぇ、奥さん」

同情するように、歯抜けの男性が言った。

 

妻は何も答えず、ぎこちない笑顔で返した。

私の目尻からは、悔し涙が一筋流れた。

 

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