会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

本当に消えた?

「泣くなよ。悪かった」私はあげた右手の拳を開き、妻の背中を優しくなでた。病院の休憩コーナーには、五人ほど入院患者がいる。ここで大泣きされたら、DV夫にみられてしまう。「でも、なんでそれがオレのためになると思うんだい?」

 

「決まっているじゃない」妻は鼻をすすりながら答える。「体を治すことが、何より大切だもの。無理して働いて、もっと悪くなったら、それこそみんなに迷惑をかけるわ」

 

「それはそうだが、会社も人手に余裕がないし、そんななかでやっているから、オレじゃなければわからない仕事が山ほどあるんだ。オマエの考えているように、オレの代わりになる人間はいないんだよ」

 

「そんなことないわ。職場には、アナタの代わりになる人はいくらでもいるはずだわ。でも家には、アナタの代わりになる人はいないのよ。アナタを失ったら、家族がどうなるか考えて」妻はキーキー声でまくし立てるように言ったが、唐突に声のボリュームを落とした。「ところで、ずっと気になっていたんだけど、会社って何?」

 

「えっ!!」

脳天を撃ち抜かれるくらいの破壊力のある質問に、自分でも驚くくらいの甲高い声がでた。

 

妻は本当に会社を理解できないのか…。

やはりおかしいのは妻のほうではないのか?

 

しかしスマホのアドレス帳には、会社関係の電話番号は一切なくなっている。

それに始業時刻を大幅にすぎた今になっても、会社から何の連絡も入らない。

 

本当に会社はなくなってしまったのか…。

 

休憩コーナーにいるすべての人に、そのことを聞いてまわりたい衝動にかられた。

 

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