会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

動じない妻

「ウォーッ! 会社は、ど、どこへ行ってしまったんだ!」

病院のトイレの便座に座るやいなや、たまっていた想いが一気に噴出した。

それからしばらく、堰を切ったように涙が溢れ出し、私は号泣した。

 

5分ほどすると、涙が枯れた。

あまり長くトイレにこもっていると、 外で待つ妻が心配すると思い、私はトイレットペーパーで鼻水と涙を拭い、さらに痕跡を消すために洗顔をしてから、トイレの外に出る。

 

「お腹の調子でも悪いの?」

出入り口の陰から、妻の顔がにゅっと出た。

 

「ワッ!!」

仰天のあまり、勢い良く鼻水が出た。

 

「ホラ、鼻水が…」

妻はハンドバックから取り出したティッシュで、私の鼻を拭こうとする。

 

「もう、拭いたばかりなのに…」

私は妻をにらみつつ、ティッシュを奪い取る。

 

「拭いたばかり?」

 

「いや、拭いたのは、それじゃなく、ケツで…」弁解を試みたが、どツボにハマっていく。私は話題をかえるべく、咳払いをした。「ともかく、こんなことをしている場合じゃないんだ。働かなければ、職場の仲間に迷惑がかかるし、何よりお前たちを路頭に迷わせることになる」

 

「その点は問題ないんじゃない」妻は平然と答えた。「アナタが休んだって、誰も困らないんだから」

 

「えっ?」

ポカンと開いた口に、鼻水が垂れた。

 

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