会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

迷子の私

病院に運ばれた私は、認知症診断テストとMRI検査を受けた。

その結果は、どこも異常なし。

 

それはうれしいのだが、バンザイと両手をあげて喜べない。

家の中だけでなく、外の世界もまったく変わっていたからだ。

 

まずは自宅の外観。

耐震性、耐久性、美観に優れた素材を選んでつくられた室内と同様に、外壁もベージュ色のつるりとした大理石のような素材を使っており、ハンマーで叩いてもびくともしないような重厚感があった(記憶にある自宅は、ひと目でフェイクのタイルをつかっているとわかる外壁であった)。

 

特徴的だったのは、屋根である。

四角い建物の上には、スキーのジャンプ台のような、傾斜のきつい広大な片流れ屋根がのっていた。

そしてその屋根は、ソーラーパネルで埋め尽くされていた。

 

驚いたことに、うちの両隣の家も、その隣も、その隣も、つまりはすべての家が全く同じ外観であった(我が家と同様、どの家にもマイカーが置かれていなかった)。

 

緩やかにカーブした道路に沿って統一感のある住宅が立ち並ぶ風景は、街全体の美観を考えてデザインされているとわかり、新婚旅行に行ったミコノス島の白と青のコントラストが美しい街並みよりも胸を打つものがあった。

 

それと同時に、どこを見ても同じ風景は、まるでどこを歩いているのかわからなくなる樹海のなかに放り込まれたような、強烈な不安感を私に与えた。

 

しかし、妻にも医師にも、私は感じている不安を伝えることはできなかった。

 

自分が今いる世界が自分の記憶にある世界と、まるで違うものだなんて話したら、私は重度な精神病患者として扱われることになると思ったからだ。

 

社会から隔離されたら、家族を養うどころか、家計の足をひっぱるお荷物になってしまう。

そうなれば我が家は崩壊だ。

 

いや、その前に深刻な問題があった。

遅刻する連絡を入れようとスマホを手にしたのだが、そのスマホのアドレス帳のどこを探しても、会社の電話番号も、上司の電話番号も、同僚の電話番号もなかったのだ。

 

前へ

次へ

最初から読む