会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

オレの家が!

 

「ねぇ、アナタ大丈夫?」

会社もコンビニもマイカーも認知できなくなってしまった妻は、心細そうなか弱い声をあげる。

 

「心配するな。すぐに朝メシを買ってくるから、オマエは服を着替えてこの部屋で待っていろ。いいか、朝食なんてつくらなくていいからな」

私は力強く言った。

内心はかなり動揺しているが、それを表に出せば、妻の病態を悪化させてしまうと考えたからだ。

 

「でも…」

妻は、ボタンをはめようとあげた私のワイシャツの袖をつかんだ。

 

「大丈夫だから」

私は優しく妻の手を外すと、つかまらないように、即座にドアのノブに手をかけ、部屋の外へと飛び出す。

 

「あ…」

目の前の光景に、私は声を失った。

まったく知らない家であったからだ。

 

「ど、どうなっているんだ…」

私は戸惑いながら、ベージュのつやつやとした光沢の壁を叩く。

石のように堅牢な音と触感がした。

 

壁だけでなく、床も天井も頑丈で耐久性のある素材を選んでつくられているようだった。

 

こんな立派な家に住んでいる?

オレが?

 

記憶にあるマイホームは、見栄えはいいが、チープな素材でつくられた狭苦しいものだ。

それでも30年のローンを組んで、ようやく手に入れた自分の城である。

 

悪い夢を見ているのか、それともオレの頭が本当におかしくなってしまったのか…。

強いめまいを感じ、私は尻から床に崩れ落ちた。

 

「どうしたの!」

背後で、勢いよく開くドアの音とともに、悲鳴のように響く妻の声がした。

 

私はコンニャクのように芯のぬけた首を、妻のほうに鈍く回して答えた。

「オレ、なんかおかしい…」

 

「そうよ」妻は驚いた様子もなく言った。「だから病院に行くんでしょ」

 

「第一章 悪夢の始まり?」終了

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