会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

加速する病

 

会社へ行くのは撤回だ!

カイシャの意味すらわからなくなってしまった妻を置いて、会社にいくわけにはいかない。

 

「オマエも外出着に着替えろ」

私は脱いだパジャマをハンガーに掛けながら妻に言った。

 

「なんで、そんなことをしなくっちゃいけないのよ」

 

「病院へ行くためだ」

 

「病院…」妻は戸惑った表情になったが、すぐに頷いて言った。「わかったわ。そのほうがいいかもね」

 

「お、おおっ」

急に聞き分けが良くなった妻に、今度は私が戸惑う。

しかし認知症の患者を病院につれていくのは、手こずると聞く。

その面倒が省けたのは、大いに助かる。

 

「その前に朝食をつくらなくっちゃいけないわね」

あっという間に下着姿になった妻は、枕元の部屋着に手を伸ばす。

 

「そんなのはいい。病院へ行く途中で、おにぎりでもサンドイッチでも買って、車の中で食べればいいんだから」

私は、部屋着のほうに伸ばした妻の手首をつかむ。

頭がおかしくなっている妻に、火を使う朝食なんてつくらせるわけにはいかない、と思ったからだ。

 

「でも、子どもたちの朝食はどうするの?」

 

「そうか…」私はすっかり子どもたちのことを忘れていた。「わかった。今すぐ車でコンビニへ行って、朝メシを調達してくる。だから、その間にオマエは外出の準備をしておけ」

 

「えっ、コンビニって何?」妻はポカンとした表情で言った。「それにウチには、車なんて無いじゃない」

 

コイツの認知症、相当進んでる…。

昨日までどこもおかしくなかった妻が、目覚めてから秒単位で病が悪化していくようで、私は底知れぬ恐怖を覚えた。

 

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