会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

おかしいのはどっち?

頭がおかしくなったのは、オレなのか、カミさんなのか…。

 

自分の頭脳が正常であることを確認するために、私は暗算をしてみる。

 

①55+23=78

 

②76+88=164

 

③92−34=58

 

④7✕8=56

 

⑤8✕6+22===70

 

5問目は手間取ったが、一応、計算能力(理数系じゃない)は問題がないようだったで、次に目に入ったものを漢字に変換してみる。

 

①まど→窓

 

②とけい→時計

 

③たな→棚

 

④うえきばち→植木鉢

 

⑤バラ→?????

 

ええと、どうだったっけ…。

だいたいの感じは思い浮かぶものの、細部が導き出せない(文系だったのに)。

私は棚の上におかれた植木鉢のバラを凝視しながら、あきらめずに考える。

 

「どうしたの? ウンウン唸って。やっぱりどこかおかしいんじゃない?」

背後から心配げな妻の声が聞こえてきた。

 

そうだ!

私はひらめいた。

 

ひらめいた、といっても、バラの漢字を思い出せたわけではない。

そうではなく、頭がおかしくなっていないかを確かめる方法を思いついたのだ。

 

私は、枕元に置いてある小ぶりなノートとシャーペン(私はメモ魔で、常にメモ帳とペンを携帯している)を手に取ると、それを妻の前に突きだして言った。

「おい、バラを漢字で書いてみろ」

 

「なによ、いきなり」

妻は怪訝な表情で、私を見上げる。

 

「いいから、書くんだ!」

私は、拒否は許さないぞ、という意をこめた強い口調とともに、ノートとシャーペンを妻の鼻先に近づける。

 

「うるさいわねぇ、もう…」

眉間にしわを寄せながらも、妻はノートとシャーペンを受け取る。

 

ヨシ、これで妻の頭が正常かどうか、確かめることができるぞ。

私は、妻に正解してもらいたいような、正解してもらいたくないような複雑な気持ちで(正解すれば、妻の頭脳は明晰だということになるが、答えられなかった自分は妻に劣るという話になるからだ。つまり、おかしいのはこちらという可能性が高まるのだ。といっても、バラという漢字は難しいので、答えられなくても認知症だと結論づけられないが…)、ノートにシャーペンを走らせる妻を見守った。

 

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