会社がない!

目が覚めたら、会社がなくなっていた。その世界は、幸せか不幸せか?

第二章 会社が消えた

賄賂はごめん

妻の声がすると間をおくことなく、弟の脳天気な笑い声が近づいてくる。 いくら兄弟でも遠慮というものがないのか。 無礼なヤツだ。 私は顔を険しくして弟の到着を待つ。 じきに弟の四角い顔が現れた(この顔立ちも、寅さんというあだ名がついた所以だ)。 「…

間の悪い男

会社から電話がないのなら、自ら会社に出向くしかないと思ったが、すべての景色は昨日までのものとは一変しているので、どうすることもできず、私は妻に頼って家に帰った。 家に着くと、時刻はもう午後1時をまわっていた。 妻はすぐに昼食を用意すると言った…

悔し涙

「ど、どうしたぁ」歯抜けの男性はオロオロとしながらも、私に駆け寄る。「オレ、何かマズイことを言ったか?」 「カ、カイシャがぁ…」 気が遠くなっていく私は、助けを求めるように、彼にむかって右手を伸ばす。 「あっ!」 突然、伸ばした手首が誰かにつか…

打ち消される希望

すがるような思いで、病院の休憩コーナーにいる患者たちを見回していると、50代前半くらいの白髪頭の男性が私にむかって手をあげた。 「よお」 頬骨のつきでたその男性は、人懐っこい笑顔を浮かべて言った。 「ええと、どうも…」 戸惑いながらも、知り合いだ…

本当に消えた?

「泣くなよ。悪かった」私はあげた右手の拳を開き、妻の背中を優しくなでた。病院の休憩コーナーには、五人ほど入院患者がいる。ここで大泣きされたら、DV夫にみられてしまう。「でも、なんでそれがオレのためになると思うんだい?」 「決まっているじゃない…

妻の爆弾発言

「オマエ、それを本気で言っているのか?」 家族のために必死に働いてきたのに、それを全否定されたようで、私の声は怒りで震えた。 「な、なに怒っているのよ」 私が鬼のような形相をしているのだろう。 恐怖で、妻の声も震えている。 しかし、私がなんで怒…

動じない妻

「ウォーッ! 会社は、ど、どこへ行ってしまったんだ!」 病院のトイレの便座に座るやいなや、たまっていた想いが一気に噴出した。 それからしばらく、堰を切ったように涙が溢れ出し、私は号泣した。 5分ほどすると、涙が枯れた。 あまり長くトイレにこもっ…

迷子の私

病院に運ばれた私は、認知症診断テストとMRI検査を受けた。 その結果は、どこも異常なし。 それはうれしいのだが、バンザイと両手をあげて喜べない。 家の中だけでなく、外の世界もまったく変わっていたからだ。 まずは自宅の外観。 耐震性、耐久性、美観に…